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2013年 08月 28日
Voyage of the trieste..
(2013/02/22〜)


数年前(もう10年近くなるだろうか)、1960年代の洋楽(とりわけサイケデリック系)のCDを買いあさり、気に入った曲でプレイリストを作って聴いていた。

iPodで今でもたまに聴いているのだが、半世紀も前に作られて今ではほとんど忘れ去られたかのような、さりとて魅力の失せることのないあれらの楽曲を作った人々は、もしかすると既に亡くなってしまったか、存命でもかなりの高齢に達していることだろう。

何というか、当たり前のことなのだが、そのことが身に沁みて感じられる。

大量生産・大量消費社会にあって、大量の複製(レコード盤)によって売り出されることになった最初の世代の、あれらの無数のアーティストたち、そのほんの一握りだけが名を残し、後は忘れ去られていく。大量生産されて流通した音源だけが、否が応にも、過剰に存続するのに対して、それを作った者たちは不当なまでの忘却に晒されて。

当時の録音技術のこと差し引いて考えても、その音はまったく色褪せていない。これは単なる感傷的な表現などではなく、昨今の打ち込み系のペラペラした音に比べて遥かに厚みがあり、ハードディスクレコーディングで何らの劣化もなしに編集された音よりも、生身の音の気配が感じられる。

そもそも、楽曲そのものの質が高い。現代にまで続くポップ・ロック音楽の多くは、60年代に出尽くしていたのだと実感する。新たなテクノロジーによって可能となった音が後から増えただけだ。演奏技術も(何度も録り直して継ぎ接ぎに編集するといったことがまだ容易ではなく、自動演奏、ループ、シーケンサーなども無かった時代であり、基本的には一発録りに近いかたちで録音されていることを考えれば)今とは比べものにならない。

これらの楽曲が、繰り返すが半世紀も前に作られていることに改めて驚愕するのである。


   *


The Chocolate Watch Band。1967年のロサンゼルスで人気を博していたガレージ・バンドだ。彼らの二枚目のアルバム"The Inner Mystique"のオープニングを飾る佳曲"Voyage of the Trieste"は、ほぼ全編で魅惑的なフルートがフィーチャーされたサイケデリックな雰囲気満載のインストルメンタル曲で、私の今でもかなりのヘヴィローテーションになっているのだが、この曲では、実際のところ、バンドのメンバーは誰一人として演奏していない(というか彼らは彼らのセカンドアルバムの制作にはほとんど関わっていないらしい。この曲は"The Yo-Yo'z"という全く別のバンドによって録音されたのものだという。この後者はおそらくスタジオミュージシャンバンドの類だったのだろう)。

レコードレーベル側やプロデューサー達の勝手な意向に翻弄されて(時代の潮流に乗り、勝手にサイケデリック・バンドに仕立て上げられて)、自分たちの名義のレコードに自分たちの音源を使ってもらえず、その音源を作ったアーティストは陽の目を見ることも無い、というこの屈折した状況にあって(だがこれはコマーシャリズムの一端としてごくありふれたものだったのかも知れないが)、その楽曲そのものは、半ば忘れ去られつつも、存続し続けるのだ。

そして私はその曲に、この出自に、この上なく惹かれるのである。確かに誰かの手によって創り出されたに違いないのに、その誰かはもはや辿り得ず、誰のものでもないかのように彷徨い、時代を移ろいつつ超克し、今日に至るまで、その非存在を生き延びるのだ…。云々…。

(〜2013/8/28)
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by junitchy | 2013-08-28 21:26 | 音楽所懐 | Comments(0)