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2007年 05月 27日
しのばしきむかしの名こそ
pleyelさん(こと、西山葵耀古さん。ホームページはこちら)は、数年前から『洋琴・源氏物語絵巻』シリーズを手がけておられる。これは、『源氏物語』を元にして朗読台本を書き、それを朗読しながら「洋琴」つまりピアノを弾く、というもの。個人的に以前よりお知り合いだったということもあり、私はこの『源氏』シリーズの演奏会をかなり多く見てきている。

面白いのは、例えば同じ「夕顔」でも毎回完全に同じということはなく、曲目や台本はその都度かなり変わっている。また会場に合わせて様々な試みをなさっていて、衣装や舞台装飾にもこだわっている。たとえば能の舞台でのようなゆっくりとしたしぐさで登場したり、薄絹、活け花、灯などが舞台上や会場内を彩っていたり、雰囲気のあるサロンでの演奏ではケーキセットが付いたり、また演奏後に立食形式でワインとワン・プレートが付いたり、ということもある。

それぞれの場合で一貫しているのは、これは音楽以外の領域との「コラボレーション」ということだ。

もちろん、コラボレーション(共同作業)というものには当事者同士のあいだで少なからず思惑の違いや行き違いなどの微妙な間(ま)が生じてしまうものであろう。だがそれは決して欠点などではなく、ある種の「可能性」の開口なのである。

そもそもこの『洋琴絵巻』シリーズは、まずは「言葉」と「音楽」とのコラボレーション(それも日本の古典文学と、西洋クラシック音楽との)であるわけなのだが、決してそれだけではなくて、これは私がこれまで見てきて感じていることなのだが、通常の演奏会の域を越えて様々なジャンルが「競演」する「場」であり、全体としてひとつの「表現形式」なのだ、ということである。チケットぴあでの取り扱いを最近「演劇ジャンル」にしたのを「そのほうが手数料が若干安いから」などと冗談混じりにおっしゃっていたことがあるが、いやいやまさしく「演劇」的(ないし総合芸術的)な要素が強いのである。


  *


私は和歌が好きだということもあり、以前から「今度は、和歌とピアノはどうか」とpleyelさんにお話ししたりしていた。
そのとき私が漠然と抱いていたイメージは、和歌に詠まれた情景をピアノにて敷衍していく幾つかの場面の連なり、例えて言うなら襖を一つ一つ開け部屋を移りながら幾つかの屏風絵を見ていくような、そんな進行といったものだったが、もちろん現実問題としては和歌を一首ずつ読み上げてただ曲を弾いていく、というだけでは構成上で問題があるし、そもそも内容が伝わりにくいだろう。和歌内容に即した文章を合わせてみる、などといろいろと思案をめぐらしていたのだが、構想として確定することなく、立ち消えになりそうだった。

そんななかで私が辿り着いたのが『建礼門院右京大夫集』である。

『平家物語』に描かれた時代を生きた一女性が残した追憶の歌集。このように言ってしまうと、この集の或る面のみを強調してしまうことになるかもしれないが、これが一般的な導入としてはもっとも分かりやすく通りが良いものだろう。歌の前に置かれた詞書はまるでこちらのほうが「本文」であるかのようであり、作品全体として見ると平安時代の女流日記文学のように受け取られることもある。内容的にもストーリー性があり訴求力のあるもので、これをぜひ『洋琴物語り』としてやってみたいと思ったのだ。

なお、私がこの集を知ったのは『玉葉和歌集』(京極為兼撰)・『風雅和歌集』(光厳院親撰)にこの集からの歌が多く採られていたからである。以前このブログでも書いたが

月をこそ 眺め馴れしか 星の夜の 深きあはれを 今宵知りぬる


や、たとえば心象風景がそのまま映じられたような

夕日うつる 梢の色の 時雨るるに 心もやがて かきくらすかな


など、新しい感覚での詠歌が京極派和歌の嗜好に合っていたのであろうし、また『平家物語』の時代から百数十年後の、今度は『太平記』に描かれることになる動乱の世(鎌倉幕府滅亡から南北朝争乱へ)のさなかにあったということで、この先人の家集に語られている内容に深く共感されるところも大きかったのであろう。

私が原案となるべき朗読台本を書き、あわせて演奏曲目案を考えていたのだが、結局、不完全な草稿というかたちでその後の完成をpleyelさんへ委ねることになった。だが演奏者本人によって舞台的一体性をより高めたかたちに練磨されていくことで、この作品がより多くの人の心へと届けられることになれば、私としては幸甚の至りである。


(※公演内容の紹介ページはこちら
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by junitchy | 2007-05-27 14:20 | 和歌逍遥 | Comments(0)
2007年 05月 27日
光厳
山寺、または、古寺。
京都洛中の喧騒を離れ、京都北山の麓、京北の地にある常照皇寺には、そんな形容がまさしく合っている。
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開山した光厳院が、その最晩年をこの寺で過ごした。動乱の世に翻弄され続けたその生涯を、一禅僧という身分で閉じたのだった。静かで落ち着いた佇まいは、院が最後に見いだした平静の境地を、そのまま保ち続けているかのようだ。

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境内には桜の古木があり、これが観光名所になっている。私が訪れた時にはまだ見頃には早かったが、かえって古木としての魅力が強く感じられる。

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四季を通じて、また訪れてみたくなる寺だ。次回は、やはり、雪の頃に。
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by junitchy | 2007-05-27 05:21 | 写真折節 | Comments(0)
2007年 05月 17日
Liste de lecture : 17/5/2007
久し振りに、iPodのプレイリスト日記を。

今日はピアノ曲(クラシックおよび現代音楽の)を集めたプレイリスト「Musique de Piano」(全1272曲)をシャッフルにて聴く。
ちなみに約一年前にはこのプレイリストに登録していたのは833曲だった。その後、バルトーク、ヤナーチェク、シベリウスのピアノ作品「全集」や、ショスタコーヴィチのプレリュードとフーガなどを追加した。ピアノ曲をかなりいろいろと聴いてきた一年だった。


07:53 - Scriabin: Piano Sonata No. 10 in C, Op. 70 / John Ogdon, piano / Scriabin: Piano Music
07:56 - Debussy: Images, 1re serie - III. Mouvement / Aldo Ciccolini, piano / Debussy: L'oeuvre pour piano
08:03 - 武満 徹:閉じた瞳 II / 藤井 一興, piano, harpsichord / 武満 徹: 鍵盤作品集成 1950-1992
08:14 - J. S. Bach: Das Wohltemperierte Klavier, Teil II - Prelude & Fugue XVIII, BWV 887 in gis-moll / Sviatoslav Richter, piano / J. S. Bach・Das Wohltemperierte Klavier
08:16 - Sibelius: Six Pieces, Op.94 - 6. Gavotte / Eero Heinonen, piano / Sibelius - Published original works for piano - compelete edition
08:16 - Bartok: Mikrokosmos, BB105(Sz.107), Book III - 68. Hungarian Dance (2 pianos) / Zoltan Kocsis, piano / Bartok: The works for piano solo
08:20 - Chopin: Nocturne, No.5 in F sharp, Op.15 No.2 / Adam Harasiewicz, piano / Chopin: The 21 Nocturnes・The 26 Preludes
08:21 - Scriabin: 4 Preludes, Op.22 No.4 / Andrei Diev, piano / Alexander Scriabin : Preludes for piano solo
08:30 - J. S. Bach: Das Wohltemperierte Klavier, Teil II - Prelude & Fugue IX, BWV 878 in E-dur / Sviatoslav Richter, piano / J. S. Bach・Das Wohltemperierte Klavier
08:34 - Debussy: Suite bergamasque - III. Clair de lune / Jacques Rouvier, piano / Debussy : Complete Piano Works
08:35 - Bartok: Mikrokosmos, BB105(Sz.107), Book II - 44. Contrary Motion (2 pianos) / Zoltan Kocsis, piano / Bartok: The works for piano solo
08:38 - Debussy: Preludes, 1er livre - 7. Anime et tumultueux (...Ce qu'a vu le vent d'Ouest) / Jacques Rouvier, piano / Debussy : Complete Piano Works
08:44 - Debussy: Images oubliees - II. Dans le mouvement d'une sarabande, c'est adire avec une elegance grave et lente, meme un peu vieux portrait, souvenir du Louvre, etc. / Aldo Ciccolini, piano / Debussy: L'oeuvre pour piano


19:38 - Debussy: La plus que lente / Jacques Rouvier, piano / Debussy : Complete Piano Works
19:43 - Chopin: Nocturne, No.13 in C monor, Op.48 No.1 / Adam Harasiewicz, piano / Chopin: The 21 Nocturnes・The 26 Preludes
19:47 - Debussy: Preludes, Livre 1 - N? 7. Ce qu'a vu le vent d'ouest / Aldo Ciccolini, piano / Debussy: L'oeuvre pour piano
19:51 - J. S. Bach: Das Wohltemperierte Klavier, Teil I - Prelude & Fugue VI, BWV 851 in d-moll / Sviatoslav Richter, piano / J. S. Bach・Das Wohltemperierte Klavier
19:58 - Ravel: Miroirs - 4. Alborada del gracioso / Roger Muraro, piano / Ravel: L'oeuvre pour piano
20:00 - Debussy: Preludes, 1er livre - 9. Moderement anime (...La serenade interrompue) / Jacques Rouvier, piano / Debussy : Complete Piano Works
20:03 - Janacek: On an overgrown path I - 9. In tears / Hakon Austbo, piano / Janacek - Piano Works (complete)
20:07 - Faure: Barcarolle No. 10 in A minor, Op. 104, No. 2 / Kathryn Stott, piano / Faure: The Complete Music for Piano
20:08 - Scriabin: 4 Preludes, Op.37 No.4 / Andrei Diev, piano / Alexander Scriabin : Preludes for piano solo
20:13 - Janacek: On an overgrown path, Two rejected pieces - Allegro / Hakon Austbo, piano / Janacek - Piano Works (complete)
20:14 - Bartok: Mikrokosmos, BB105(Sz.107), Book III - 83. Melody with Interruptions / Zoltan Kocsis, piano / Bartok: The works for piano solo
20:15 - Bartok: 6 Roumanian Folk Dances, BB 68, Sz.56 - 1. Stick Dance / Zoltan Kocsis, piano / Bartok: The works for piano solo
20:18 - Janacek: On an overgrown path II - 1. Andante - Un poco piu mosso / Hakon Austbo, piano / Janacek - Piano Works (complete)

そういえば今年の一月には、それまで使っていたSHURE-E3からE4cへグレードアップした。このイヤフォンだからこそクラシックを聴こうと思えるのだ。

それでも今まではクラシック系ではピアノと室内楽のものだけを入れていて、オーケストラものは入れていなかった。E4cならオケの最弱奏からトゥッティ(=全奏。オーケストラの全楽器が鳴っている)までちゃんと聴けるかなと思い、試しにまず、シャルルデュトワ+モントリオール管のドビュッシー『映像』『夜想曲』を取り込んでE4cで聴いてみたが、ダイナミックレンジは十分(まあ外音を遮断しているので弱奏のソロなどもちゃんと聞こえるということだといえばそれまでだが)。もちろん圧縮した時点で音質は(特にアタック部分などで)如実に悪くになっているが(ちなみに自分はクラシック系についてはAAC320kbpsでエンコードしている)、かといって非圧縮で入れていては容量が追いつかないので、これは割り切ることにする。

これから私の大好きなストラヴィンスキーの『管弦楽のためのシンフォニー』や『詩編交響曲』とか、バルトークの『弦打チェ』(=弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽)なんかも入れてみよう。
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by junitchy | 2007-05-17 23:28 | iPod playlists | Comments(0)
2007年 05月 13日
今や夢
『平家物語』の掉尾(とうび)を飾る「灌頂巻」では、壇ノ浦で助け上げられたあと出家して大原寂光院に隠棲していた建礼門院(平清盛の娘、平徳子)を後白河法皇が訪ねるという場面(いわゆる「大原行幸」)が描かれているが、かつてこの建礼門院に仕えた「右京大夫」という召名で知られる或る女房も、建礼門院を大原へと訪ねていたことが、彼女の家集『建礼門院右京大夫集』によって知られる。


「にようゐん(女院)、大原におはしますとばかりは聞きまゐらすれど、さるべき人に知られではまゐるべきやうもなかりしを、深き心をしるべにて、わりなくてたづねまゐるに、...」
(女院[=建礼門院]は、大原においでになるということだけは聞き知っていたが、しかるべき人を通さずに参上するわけにもいかず、それでもやはり、女院を深くお慕いするこの心を道しるべにして、止むに止まれぬ気持ちでお訪ねした)


私も、この右京大夫の思いに誘われてか行ってみたくなり、京都に着いたらまずは大原へと向かった。京都駅前からバスに乗り、桜が満開で大渋滞の鴨川沿いの道を抜けて、高野川沿いへと入っていくあたりから急に山里の雰囲気が感じられ、道の両側には低い山並みが続く(右手は比叡山に列なる)。


「...やうやう近づくままに、やまみちのけしきより、まづ涙はさきだちていふかたなきに...」
(だんだん近づくにつれ、山深くなる道の様子からして [女院はこんな深い山の中にいらっしゃるのかと思われて]先ず涙があふれ出て、言い様もない)


右京大夫が大原を訪れたのは秋のことであったから、なおいっそう物悲しく感じられたことだろう。そうして辿り着いた寂光院で右京大夫が見た有り様は、ひどいものだった。


「...御いほりのさま、御住まひ、ことがら、すべて目も当てられず。昔の御有様見まゐらせざらむだに、おおかたのことがら、いかがこともなのめならむ。まして、夢うつつとも言ふ方なし。」
(女院のおいでになったご庵室(あんしつ)の様、お住いのご様子など、全てのことがらが[とてもひどいもので]目も当てられない。昔のあのご栄華を見たことがない人ですら、ここでの大方の様子をどうして当り前のことだと思えようか。まして、以前のご様子をよく存じ上げている私にとっては、夢とも、現実のこととも、何とも言いようがない)。

当然ではあるが、実際に私が行くとこのような感じではなく、喧騒から離れていて静かでこじんまりとした、綺麗な境内だった。数年前に失火にて全焼してしまった後、元通りに建て直された本堂など特に美しく、却って場違いな雰囲気すら感じられた。

石段
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本堂
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『平家物語』では、法皇に向かって建礼門院は「六道」になぞらえて自ら体験を語る場面が描かれるが、これは後人の創作の部分が大きいのだろう。その『平家物語』成立にあたって資料としても使われている『建礼門院右京大夫集』には、右京大夫が建礼門院とどのような言葉を交わしたかについては何も書かれていない。だが当事者としての彼女の思いはかえってよく伝わってくるように思われる。


「都ぞ春のにしきを裁ち重ねてさぶらひし人々、六十余人ありしかど、みわするるさまにおとろへはてたるすみぞめの姿して、わづかに三四人がかりぞさぶらはるる。その人々にも「さてもや」とばかりぞ、我も人もいひいでたりし、むせぶ涙におぼほれて、すべてことも続けられず」
(「都ぞ春の錦なりける」と古歌にいうような美しい錦を着重ねてお仕えしていた女房は六十人あまりもいたが、今では、その人は誰であったかと見忘れるほどにやつれはて、墨染の姿で、僅かに三、四人だけがお仕えしている。その方々にも「それにしても、まあ…」とだけ、私もその人も言い出したものの、むせび泣く涙にいっぱいになり、まったく言葉も続けることが出来ない。)

今や夢 むかしやゆめと まよはれて いかにおもへど うつゝとぞなき
(目の当たりにしているこの今が夢なのか、それとも昔のことが夢だったのかと思い迷われて、
どんなに考えてみても、本当のことだとは思えない)



汀(みぎわ)の池とよばれる庭は、平家物語の当時そのままの姿を伝えるものだという。樹齢千年以上もあったのに近年枯れてしまった松が、神木として祭られていた。また「諸行無常の鐘」との名のついた古い鐘楼があるが、保存のためか梵鐘を撞くための撞木はロープで固定されて鐘を撞くことは出来ないようになっていた。

神木
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諸行無常
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朽ちた松と、撞かれることのない鐘。この同じ場所で、かつて起こったであろうことに思いを馳せ、しばし沈思。今ここで目にしているものは、では果たして現実なのか。それとも、『平家物語』あるいは『右京大夫集』の言葉たちによって作り出された虚構の世界だったのだろうか。


「さる程に寂光院の鐘のこゑ、けふも暮れぬとうち知られ、夕陽西にかたぶけば、御名残をしうはおぼしけれども、御涙をおさへて還御ならせ給ひけり。」 (『平家物語』)


後白河院が聞いたこの鐘の音はもう聞こえないが、たしかに夕暮が迫っていた。名残惜しい気持ちで、寂光院を後にした。
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by junitchy | 2007-05-13 18:01 | 和歌逍遥 | Comments(0)
2007年 05月 06日
Semaine d'or
連休中はやることがあって(なおこれについては、後日お話出来るだろう)、結局どこへも行かずにほぼずっと家にいた。

今日も悶々としながら(笑)Macに向かっての作業。夕食も食べずに、ふと時計を見てみたらもう夜11時。今からなにか作るのももう億劫なので、もうこうなれば酒を飲むしか(苦笑)。ちなみに、昨日も、でした。

今日は、連休に入る前に買ってあった、安いシングルモルトスコッチ(マックルランドというブランドで、シングルモルトなのにボトル2000円で買える)に、つまみはミックスナッツ(バタピー+クルミ・カシューナッツ・アーモンド)と、ドライフルーツ入りクリームチーズ、そしてパプリカのピクルス。これだけあれば何だかかなり豪勢な感じだ。ちなみに昨日は、スピリタスに、プリングルスとチョコモナカアイスという、チープながら定番の組み合わせだった。今日もあっと言う間にストレートでショットグラス4杯ほどいってしまった。

ああ、こうして、黄金などとどこかで言われていたかもしれなかったであろうような、ある長い週末が終わる...
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by junitchy | 2007-05-06 23:52 | 味覚嗜好 | Comments(0)