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2005年 11月 09日
朝の雨
高校の友人(最近はお互いに全く音信不通)が話していたのだから10年以上前になるだろうが、フジテレビの深夜番組で登場する出演者が自分の葬送行進曲を選ぶというのがあったらしい。私自身はついに見たことがないので詳しくは分からないが。では自分たちだったら何を選ぶか、という話になった時、その友人は確かバッハを選んだはずだ。私は、迷わずドビュッシーを挙げた。それ以降、私の中では、その時に選んだ曲名は変わっていない:『6つの古代墓碑銘』の第一曲「夏の風の神、パンに祈るために」と第六曲「朝の雨に感謝するために」とを続けて演奏。

その六曲目では、細かなアルペジオが砂を打つ雨音を象徴的に描くが、最後にほんの一瞬だけ、一曲目のアルカイックな旋律がさながらその裸形において、回想される。その後は、ごく短いささやかな後奏で曲を終える。この曲の終わり方、このほんの数秒の「彩られた時間」は、私自身の美的感覚みたいなものが形作られるにあたって、最も重要な道しるべとなっていたように思う。

『6つの古代墓碑銘』は、ドビュッシーがその友人ピエール・ルイス作の詩集『ビリティスの歌』(古代ギリシャのビリティスという(架空の)女詩人が近年発見され、そのフランス語初訳、という体裁で発表されたのだった)の朗読の舞台のために作った音楽を、彼自身が後に改作したものである。第六曲のもとになった「朝の雨」という詩は、今でもとても忘れ難い。


 夜は消え、星は遥かに遠ざかり、後まで残った遊女(あそびめ)も、恋人と共に帰って、今はただ私だけ、朝(あした)の雨に濡れそぼれ、砂の上に 詩を書いている。

 木の葉は 輝く水に濡れ、小径(こみち)を横切る行潦(にわたずみ)、土と朽葉の流されて。一滴(ひとしずく)また一滴、私の歌を 穿(うが)つ 雨。

 おお、ここに ひとり悲しく。若人に かえりみられず、年老いた人も 私を忘れ果て。あわれ この世のならいかな。けれども 私の詠む詩(うた)は、いつかは人に知られよう、人の子の子に 知られよう。

 ミルタレ、タイス、ゲリケラも、豊かな頬(ほお)の顰(しか)む日に、わが身を語りはせぬだろう。されば後の世に生れ 恋を語らう人々は、私の詩(うた)を 諸声(もろごえ)に 高く歌おう。

(鈴木信太郎訳、角川文庫版『ビリチスの歌』より。文字遣い一部変更あり)


この文庫本を古本で購入した日付が、1990年11月21日、と書き入れてある。ちょうど15年後の秋深まるこの時期に再び読み返すことが出来たのは一つの僥倖だった、と言いたい気がするのである。
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by junitchy | 2005-11-09 22:46 | 冗語縷々 | Comments(2)
2005年 11月 06日
曙光
《あの山々の頂が 身震ひを
し始めてゐるその上に なんといふ曙。》
ポール・ヴァレリー(鈴木信太郎訳 文字・仮名遣い一部変更)

まだ日の明け切らない薄明の時間のうちに書斎に向かい「カイエ」を書き付けるのをヴァレリーは日課としていたが、それに倣って私も、朝早くに起き出して日々文章を書き連ねたいものだ、と一体今まで何度考えたことか。もちろん、それを実現出来たことはほとんどないのであるが。むしろ週末の休みの前、夜更かしの朝を迎えるときに、そのような早朝の思索が訪れることがあるくらいだ。

薄明の、星々が消える前の、人々の活動が始まる前の、物事が動き出す前の、わずかな、もろい、消えゆく時間、この至高のひとときを、私はいかに、無為に、過してしていることだろう。
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by junitchy | 2005-11-06 06:43 | 冗語縷々 | Comments(4)
2005年 11月 01日
ミクロコスモス
シャッフルモードの面白さに改めて気付いたのが、バルトーク作曲のピアノ教則本であり、かつ見事なバルトーク的音楽言語の集大成であるところの『ミクロコスモス』全153曲をiPodにてシャッフル再生したときだった。通常、この手の作品は、最初のあたりはつまらない曲が多く(ドレミファソファミレド..)、集中して聴いているとかえって疲れてしまい、そのうち飽きてきてしまうものなのだが、順不同で聴くと様相は一変する。思い掛けない組み合わせで素晴らしい効果を生み出す。まるで連歌における作法のように。つまり、問題となっているのは一曲一曲ではなく、その前後のつながりのほうなのだ。

今までに数回、全曲をシャッフルで聴いた。10/31朝の通勤電車内でまた再びシャッフルしてみる。途中まで(53曲目)で時間切れとなったが、その時の曲順を以下に。なお時間はその曲が再生完了した時点でのタイムスタンプ、星印は私が前に付けたマイレート(星5つが満点)である:

7:50 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 86. Two Major Pentachords 
7:50 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 80. Hommage a R.Sch. 
7:51 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 82. Scherzo 
7:52 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 31. Dance in Canon Form 
7:52 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 54. Chromatics 
7:53 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 77. Little Study ★★★
7:54 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 59. Major and Minor 
7:55 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 101. Diminished Fifth 
7:56 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 14. Question and Answer 
7:57 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 103. Minor and Major 
7:58 Bartok: Mikrokosmos, Book V - 122. Chords Together and Opposed ★★★★
7:59 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 110. Clashing Sounds 
8:00 Bartok: Mikrokosmos, Book V - 138. Bagpipe Music ★★★★★
8:02 Bartok: Mikrokosmos, Book VI - 146. Ostinato 
8:03 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 117. Bouree 
8:04 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 40. In Yugoslav Style 
8:06 Bartok: Mikrokosmos, Book VI - 143. Divided Arpeggios 
8:07 Bartok: Mikrokosmos, Book V - 127. New Hungarian Folk Song (with voice) 
8:09 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 97. Notturno ★★★
8:11 Bartok: Mikrokosmos, Book VI - 148. Six Dances in Bulgarian Rhythm I ★★★
8:13 Bartok: Mikrokosmos, Book VI - 145. Chromatic Invention (3) (versions a & b) 
8:14 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 3. Unison Melody (3) 
8:15 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 83. Melody with Interruptions ★★★★
8:16 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 33. Slow Dance 
8:17 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 107. Melody in the Mist ★★★
8:17 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 115. Bulgarian Rhythm (2) 
8:18 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 56. Melody in Tenths 
8:18 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 27. Syncopation (2) 
8:23 Bartok: Mikrokosmos, Book VI - 144. Minor Seconds, Major Sevenths ★★★
8:24 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 89. In Four Parts (1) 
8:25 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 74. Hungarian Matchmaking Song (version a & b; version b. with voice) 
8:26 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 67. Thirds against a Single Voice 
8:27 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 30. Canon at the Lower Fifth 
8:27 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 1. Unison Melody (1) 
8:28 Bartok: Mikrokosmos, Book V - 129. Alternating Thirds ★★★★
8:30 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 116. Melody 
8:31 Bartok: Mikrokosmos, Book III - 75. Triplets ★★★★
8:32 Bartok: Mikrokosmos, Book V - 134. Studies in Double Notes (versions a, b & c) 
8:33 Bartok: Mikrokosmos, Book V - 131. Fourths 
8:33 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 38. Staccato and Legato (1) 
8:34 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 6. Unison Melody (6) 
8:35 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 36. Free Canon 
8:35 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 9. Syncopation (a) 
8:36 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 105. Playsong (With Two Five-Tone Scales) ★★★★
8:37 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 11. Parallel Motion 
8:38 Bartok: Mikrokosmos, Book IV - 106. Children's Song 
8:39 Bartok: Mikrokosmos, Book V - 128. Peasant Dance ★★★
8:40 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 61. Pentatonic Melody 
8:41 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 20. Unison Melody (9) 
8:41 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 4. Unison Melody (4) 
8:42 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 63. Buzzing 
8:43 Bartok: Mikrokosmos, Book II - 65. Dialogue 
8:44 Bartok: Mikrokosmos, Book I - 32. In Dorian Mode 

まさに、このように再生されることにおいて、「ルプレザンテ(上演・再現前化)」されることにおいて、そのつど新たに、新たな「ミクロコスモス(小宇宙)」が形成されることになるのだ。こんな風に言ったら大袈裟だろうか。
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by junitchy | 2005-11-01 23:50 | iPod playlists | Comments(0)