2007年 10月 14日
秋歌選
秋の日のうすき衣に風たちて行く人待たぬをちの白雲
   藤原定家 (玉葉和歌集、巻第八、旅歌)

秋の日の弱い陽光、まだ夏の薄い衣を着ていた旅人には涼しく感じられる風が立ち、その風に吹かれて遥か遠くに流れる白雲は行く人を待ってはくれない。もう秋になってしまったのだ。季節のうつろいは、こんなふとした瞬間に実感されるものだろう。「をち」は「遠く」の意。

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夕づく日むかひの岡のうす紅葉まだきさびしき秋の色かな
   藤原定家 (玉葉和歌集、巻第五、秋歌下)

暮れかかった陽光に照らされ、向いに面した岡のあたりで薄く色づき始めた紅葉は、早くもあのうら淋しい秋の色、秋の気配になっているなあ。まだ薄い紅葉が夕陽の紅によって濃く染められたかのようなその色彩に、秋の深まりを感じないではいられない。「まだき」は「早くも」の意。

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ま荻ちる庭の秋風身にしみて夕日のかげぞかべに消え行く
   永福門院 (風雅和歌集、巻第五、秋歌上)

風にそよぐ荻も散ってしまい、庭を吹きぬける秋風が肌身にしみてじかに感じられる、晩秋の夕暮れ時、低く斜めに部屋の奥まで差し込んでいた弱々しい陽光が、ふと、壁の上で消えてしまった。その瞬間の、言うに言われぬ美しさ。こうした仄かでかすかな動きを捉えてそこに美を見出すことのできる鋭い感受性は、いわゆる「京極派」歌人らの顕著な特徴である。

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まだ暮れぬ空の光と見る程にしられで月の影になりける
   伏見院 (玉葉和歌集、巻第五、秋歌下)

夕陽はまだ沈み果てておらず、その最後の残照かと思ってほのかに明るい空を見ていたのだが、それはいつの間にやら月の光へと変わってしまったのだなあ。日と月とによって繰り広げられる美しい天空の情景。

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月見れば千千にものこそ悲しけれ我が身一つの秋にはあらねど
   大江千里 (古今和歌集、巻第四、秋歌上。百人一首、二十三番)

月を眺めると、あれやこれやと思い悩まれて物悲しく感じられるものだ。なにも私一人だけの秋だというわけでもないというのに。古来、人は月を眺めては、そのいつまでも変わらぬ姿に遠ざかった懐旧を思い出し、またつれない恋人を思い慕う。秋の夜の月なら、なおさら強く物思いをさせられることだろう。

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嘆けとて月やはものを思はするかこちがほなるわが涙かな
   西行 (千載和歌集、巻第一五、恋歌五。百人一首、八十六番)

月が嘆けと言って私に物思いをさせているとでもいうのだろうか。いやそうではないのに、まるで月がそうさせるのでもあるかのように恨みがましく流れるこの涙であることだ。月に思いを託して詠んだ、深い情愛の歌。

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竜田川散らぬもみぢの影みえてくれなゐ越ゆる瀬々の白浪
   九条良経 (続拾遺和歌集、巻第五、秋歌下)

今はまだ散っていない紅葉だが、水面に映じたその像が美しく見えて、その紅色を越えゆくように竜田川のせせらぎが白い浪を立てて流れている。竜田川といえば散った紅葉が川面を流れる情景が古来詠まれるが、この歌では水に映った紅葉の「紅」と、せせらぎの「白」とが鮮やかに対比されている。

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眺むれば我が心さへはてもなく行方も知らぬ月の影かな
   式子内親王 (続拾遺和歌集、巻第五、秋歌下)

物思いに耽りながらぼんやり月を眺めていると、私の心までも、果てしなく広がっていってしまうかのよう。どこまでも行方も知らぬ月の光であることよ。これは単に恋人を思っての詠だろうか、いやむしろ、森羅万象へと思いを巡らしているのではないだろうか。「行方も知らぬ」(行く先も定まらぬ、あてどもない)は、式子内親王が好んで使う語。

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行方なき空に心の通ふかな月すむ秋の雲のかけはし
   藤原定家 (拾遺愚草、上、三四八、閑居百首)

月が澄み切って輝く秋の夜には、雲が掛け橋となって、あてどもなく広がっていく天空へと我が思いを馳せ、心通わせるのだ。先の式子内親王の詠に共通する、大きな広がりを持った歌。



(2007年9月26日 板室温泉大黒屋・音を楽しむ会 西山葵耀古さんによるピアノおよび和歌朗読「秋の歌に寄せて」のために選んだ和歌と、和歌解説)
西山葵耀古さんのブログのエントリはこちら
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by junitchy | 2007-10-14 12:10 | 和歌逍遥 | Comments(2)
Commented by 葵耀古 at 2007-10-15 01:58 x
有難うございます。こちらの拙ブロ最新にそのときのことを書かせていただきました。
Commented by junitchy at 2007-10-15 22:14
こちらこそさっそくありがとうございます。
ブログにトラックバックが出来ないようでしたので、記事内にリンクを追加しておきました。


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